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お酒ものがたり◆月を想って飲む酒

いらっしゃいませ。「街路」のなりたです!

めっきり寒くなってまいりました。東京の神田神保町にございますバー「街路」より、ふたたび「お酒ものがたり」を発信していきたいと思います。どうか1年間おつきあいの程よろしくお願いいたします。

月を想って飲む酒

お酒に関する用語には月にまつわる言葉が多いように思います。お酒は夜飲むものだから? それって誰が決めたんでしょうか。謎が残りますが、今日はムーンレイカーというカクテルのお話。

MOONRAKER

用意するもの:

ブランデー
キナいりワイン
ピーチブランデー

以上、同量に

アブサン3ダッシュ

これらをシェイクしてカクテルグラスに注ぎます。

強くて少しだけ甘くてちょっと苦い、クラッシックなカクテルです。

月を集める人(moon〈月〉+raker〈(熊手などで)かき集める人〉)って詩的な意味があるのかしら、と調べたところ、イギリスはイングランドにある「ウィルトシャー州の人」のこと、または「バカ者、アホウ者」を表す英語の古い隠語だとか。

以下はウィルトシャーに伝わる昔話。

***

満月の晩、密売人の荷車がウィルトシャーの村を通り過ぎようとしていました。荷車には密輸品のブランデーが入った樽が積まれていました。

ところが池のほとりにさしかかると、荷台から外れた樽が池のなかにどぼんと落ちてしまいます。あわてた密売人たちは辺りで見つけた熊手をつかむと、樽を岸に引き寄せようと悪戦苦闘。

そこに村のお役人が通りかかりました。暗がりの池に見えるのは水面に映る満月だけ。不審に思ったお役人は何をしているのか問いただします。すると密売人のひとりがこう答えました。

「そこにでっけぇチーズが浮いてるでしょう、あれをどうにか取れないもんかと思いまして」

それを聞いたお役人は「とんでもないアホウ者だわい!」と大笑いしてその場を立ち去ります。その後もお役人は自分の周りの人にそのことを話しては大笑いするのですが――

最後に笑ったのはだれでしょう?

***

予想に反し、全く詩的ではないお話でしたけれど、この機転の利いた密売人の話はウィルトシャーの人たちのお気に入り。今でもピンバッヂのデザインや、パブの看板のデザインに使われたりしています。

「ムーンレイカー」の昔話がウィルトシャーの方言で書かれているお皿(from Wiltshire Museum

***

いつ頃誕生したカクテルなのかは不明ですが、古くはサヴォイ・カクテルブックにも登場していますので、少なくとも1930年頃には存在しています。

同じ名前をタイトルに持つ英国作家イアン・フレミングの長編小説『007 ムーンレイカー(Moonraker)』(1955)は、1979年にボンド・シリーズ第11作として映画化されます。原作ではイギリスを標的にする核ミサイルロケットの名前が「ムーンレイカー」。ただし映画ではスペースシャトルに変更。さらにその「ムーンレイカー」が人類を抹殺しようとする組織にハイジャックされてしまう、という壮大なお話に。その少し前、1977年には『スター・ウォーズ』の成功もあり、宇宙・SFがブームだった時代です。

中世ヨーロッパの人達も錬金術によって生まれた命の水を口に含んでは、宇宙と繋がれるのではないかと夢を見たそうです。月を見て宇宙に想いを馳せて、いつの時代も美味しくお酒を飲みたいものです。

さて、月夜の晩には何を飲みましょうか。

―なりた

最後に笑ったのはもちろん・・・!

街路(GAIRO)

〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1丁目2−5(都営地下鉄三田線・新宿線、東京メトロ半蔵門線【神保町駅】から徒歩3分)

電話:03-3518-9168(営業日・時間はお店に直接お尋ねください)

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