第三連では、華やかな競馬場の場面と、場外の殺風景な場面が対照的に描かれていました。第四連はまた時間が現在に戻ります。
第三連とは対照的に、第四連は再び静けさに包み込まれている。「黄昏(dusk)」が降りてきて、「草地(meadows)」がわざわざ「苦しみを与えない(unmolesting)」と記されています。
「かれらの名前(their names)」は年報に記載されている(「年鑑に載る(almanacked)」)けれども、その栄光はすべて過ぎ去っている。言いかえれば、「時」によって盗まれて(stolen)いる。
この連の最終行は終わり方が唐突で、生き残るかれらの「名前(names)」と対比してみれば、この馬たちが死ぬことを暗示しています。
ここで第一連の「冷たい日陰(cold shade)」に目を向けなくてはなりません。この語は「悩ます(distresses)」という語といっしょになって、近づく死を表していたのではないでしょうか。
例外的に9音節から成る2行目での、馬が「首を振る(shake)」仕草は多義的です。それは馬のいつもの動きなのでしょうか。それともかれらは問いかけに、「ノー」と答えているのでしょうか。
●第一連のdistressesについて
かなりフォーマル(formal)な語のため、「死」との関連を呼ぶという指摘はそれほど的外れではないでしょう。
●almanacked
詩の中では前行のallとともに頭韻を形成しています。この2行の行頭はほかの大部分の行とは異なり、弱強(iambus)ではなく強弱(trochee)として読むのがふつうでしょう。
●最後のtheyについて
いわゆる「句またがり(enjambment=意味や構文が句や行にまたがること)」。theyは形式上ここで切れ、構文・意味的には次の第五連につながるので、その効果は大きい。
さらにこの第四連最終行は、ほかと違って音節数が7つ(Al・ma・nacked, their names live; they)であり、行末欠節(catalexis)が見られます。期待される強音節が欠けているために、「句またがり(enjambment)」の効果を一層高めていると言えるでしょう。
●9音節(nine syllables)
They shake / their heads. / Dusk brims / the shad (/) ows.
第四連の2行目は、単音節語が7つ続いた後に、shadowsという2音節語が続くので、明らかに音節数がほかの行よりひとつ多い(hypermeter)。基本的に弱強4歩格(iambic tetrameter)で構成されている詩であることを考えると、行末のshadowsの弱音節が余剰(hypercatalectic)ということになります。
韻律法では弱音節で終わる詩行を女性行末(feminine ending)と呼びますが、実は5行目のmeadowsにも同じことが言えて、女性韻(feminine rhyme)を形成しています。
先に触れた行末欠節とあわせ、こうした韻律の変化は第四連がいかに陰翳に富んだ意味を担っているかを反映しているのでしょう。
ざわめきたった場面から急展開しましたな。次の講義は26日、最終連です。