きょうは引き続き、ラーキンの「草をはんで」をみていきましょう。第一連で語られた「かれら」との距離は、物理的なものから時間的なものに変化します。
第二連は、馬たちが名声を勝ち得た日々が回顧されます。逆説的なことに、過去のイメージは、実際は詩人の想像力の中で作りだされたものにすぎないにもかかわらず、第一連と比べると次第に明確なものになっていきます。
詩人は、専門用語やあまり見慣れない動詞を駆使して、競馬に関わる華やかな細部を提示することに夢中になっているらしい ―― かれらは、しばしば6月に開催される大きなレース(「カップ戦(Cups)、ステークス(Stakes)、ハンデ戦(Handicaps)」)で20回以上も大差(Two dozen distances)をつけて勝ち、有名になった(「伝説化し(fable)」、そして「その名前は念入りに美しく刻み込まれた(their names were artificed to inlay …)」)というわけです。
●distance
この詩の中では、競馬用語の「大差」の意味で使われています。ですから、ここでの「距離」とは、厳密にいえば、若干のずれがあります。しかしそれでも、distanceという語をこの詩のキーワードとして注目することは可能でしょう。なお、distanceを形容するTwo dozenは厳密に訳せば「24回」。
●Cups
いわゆる「優勝カップ」のことで、さまざまなスポーツ競技で「カップ戦」という言い方がされていますが、競馬ではcup-day(~杯争奪戦の行われる日)やcup horse(カップ戦に出走する馬)といった表現もあります。
●Stakes
今では日本のレースでもよく使われる語。もともとは賞金(掛け金)の分配に関わるレースを指しました。The Oakes Stakes, The Derby Stakes, St. Ledger Stakesなど。五大「クラシック」レースに含まれます。
●Handicaps
いわゆる「ハンデ戦」。The Rosehill Handicap, The Pavilion Handicapなどレース名にも使われます。handicapの語源はhand in capで、当事者2名が品物を賭け、価値の差を補うだけの金額を帽子の中に入れて行うゲームに由来します。ゲーム自体は14世紀末には存在したらしいですが、17世紀にこの呼称が用いられていることが確認されています。
競馬用語としては、2頭の馬のレースについてa handy-cap matchという用語が18世紀に使われたのがどうやら最初のよう。19世紀中頃から、いわゆる「ハンデ」をつけた競馬以外のゲームやスポーツ競技についても使われるようになり、さらには比喩的な意味でも用いられるようになりました。
●June
この前後の記述に関しては映画『マイ・フェア・レディ(My Fair Lady)』のアスコット(Ascot)競馬場の場面を思い出すといいかもしれません。6月に開かれるRoyal Ascotは上流階級の社交の場の典型。
いやはや、イギリスの競馬場というのは華やかなものなんですな。今回も脚韻に注意して、音声で聴いてみましょう。次回の講義は22日ですぞ。