かれこれ2年近く、コロナウイルスはさまざまな形に変化しながら今現在も世界中で猛威をふるっています。今日は、「ウイルス学入門」でおなじみの喜田宏先生と人獣共通感染症について学んでいきましょう。
「人獣共通感染症って何?」
人獣共通感染症を英語で書くとzoonosis となります。前半のzooは「動物園」でおなじみの単語、うしろについている-osisというのはラテン語で「~症」つまり病気を表す接尾語です(複数形だと-osesとなりますから、当然zoonosisも複数形はzoonosesとなります)。これはいま猛威を振るっているコロナウイルスを語るときにも出てくる言葉ですから、みなさんよく覚えておいてください。
元々宿している動物にとっては害のないウイルスや細菌が、ほかの動物やヒトに感染すると重篤な感染症を引き起こす場合があります。これを「人獣共通感染症」と言います。
以前、この本のなかでもお話したように、インフルエンザウイルスは、渡り鳥であるカモが運んできたウイルスでした。カモには何の症状も起こさない腸内のウイルスが、家畜のブタを介してヒトの体内にはいると呼吸器に悪さをする、人間にとっては非常にやっかいなウイルスです。
「コロナウイルスも人獣共通感染症?」
2019年の冬、中国・武漢で発見された新型コロナウイルスはのちに、海鮮市場で動物からヒトに伝染し、その後ヒトからヒトへの感染が認められた、と中国当局によって報告されています。ですから、コロナウイルスも人獣共通感染症ですね。
コロナウイルスはひじょうに短時間のあいだに、世界中に広がりました。約2年半の間に2億人以上の人たちがコロナウイルスにかかったのです。これはコロナウイルスが飛行機、電車、船と世界中に張り巡らされた交通網によって運ばれたからです。まだワクチン接種が実施されていなかった昨年に、世界の主要都市で「ロックダウン」が行われたのは、ウイルスを運ぶヒトの出入りを止めるしか方法がなかったからでした。
じつは、インフルエンザウイルスやコロナウイルスだけではなく、約6割の感染症と、ほぼすべての新興感染症が人獣共通感染症です。エボラ出血熱、エイズ、牛海綿状脳症(BSE)、ラッサ熱、黄熱――みなさんも聞き覚えのある感染症ですが、これらもみな人獣共通感染症です。
「人獣共通感染症はなくならないの?」
これも本のなかでお話ししたように、人獣共通感染症を根絶するのは不可能です。ですから、わたしがユニバーシティプロフェッサーとして所属する人獣共通感染症リサーチセンター(北海道大学)では、感染症の発生を予測して流行を防止する『先回り対策』と、効果的なワクチンや治療薬をつくり、感染症を封じ込めることを日夜研究しているんですよ。
それから新開先生の後につづいて、(喜田先生も登場する)人獣共通感染症リサーチセンターを見学しよう!