5月――大型連休も終わり、あっという間に梅雨の時期が到来です。遅くなりましたが、きょうは昭和を代表する作家のひとり、司馬遼太郎の短編集『風塵抄』のなかの「やっちゃん」という話から想像したお酒の話をさせていただきます。
やっちゃんの飲んだ酒
今年は作家・司馬遼太郎さんの生誕100年ということで、命日の2月12日に開かれる「菜の花忌 シンポジウム」ではパネリストたちが司馬作品の魅力について語り合いました。その中で作家の門井慶喜さんがお薦めしていたのが、1987年(昭和62年)に書かれた「やっちゃん」という作品です。文庫本で4ページちょっと。短いながらもやっちゃんという市井の人の愛すべき人生を垣間見ることが出来ます。今日はやっちゃんがどんなお酒を飲んだのか、勝手に想像したいと思います。
「やっちゃん」(あらすじ)
小学生のとき、左耳を動かすのが得意だったやっちゃん。左官の徒弟に入った頃には戦争となり、戦後のヤミ屋を経験しつつも、またいちから左官の道へ。あこがれだった白壁や聚楽の壁のような「贅沢な仕事」は出来ないまま左官業を引退したが、いまでは奥さんに請われて両耳を動かすのが得意になったやっちゃんの「男の一生」物語。
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おそらくやっちゃんは昭和元年頃、世の中は戦間期に生まれているようです。
出身地は兵庫、姫路城の城下町か播磨平野かもしれません。この地域、割とおっとりのんびりした方が多いとか。
幼少期をこの辺りで過ごしたと推測します。
15歳で左官の徒弟に入りますが間もなく兵隊にとられます。やっちゃんが初めて飲んだ酒は、出兵の際のお神酒のようなものでしょうか。
戦後のヤミ屋の時代には、カストリ、バクダン、密造酒を経験して、お酒はあまり好きになれなかったかも知れません。もしかしたら集団就職で東京にやって来て、やっちゃんは東京の人と結婚したんでしょうか。
30歳前後で独立した後も職人仲間の飲む焼酎は口に合わなかったでしょう。優しい奥様はやっちゃんの為に晩酌を準備。播磨の日本酒を一合程度。普段は冷で、寒い日には熱燗です。
隠居するころにはマンションで、奥様の漬けた梅酒をお湯割りにして飲むのが楽しみです。海外旅行のお土産のウイスキーなんかは家のサイドボードに入れたまま。何かあったら開けようと思うけれどもう暫くそのままです。闇市で飲んだ密造ウイスキーの記憶が邪魔しています。
奥様の用意した必要なだけの量のお酒をそんなに執着することなく飲んだだろうやっちゃん。聚楽を塗ることは無かったけれど、心のこもったお酒を過不足なく嗜みました。
ごくごく普通の酒が、私達の生活を豊かにしてくれます。やっちゃんの飲酒歴は羨ましい限りです。
なりた
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