みなさん、こんばんは。いつも「街路」にいらしてくださってありがとうございます。そういうわたしも「街路」にはよく足を運ぶひとり(ひとネコ)。きょうは特別、ウイスキーの製造過程で大昔から行われていた「フロア・モルティング」について語りたいと思います。
というのも、こんな記事を読んだからで・・・
国産モルトウイスキー 幕開け1世紀
2023年2月7日朝日新聞より
サントリーによる日本初のモルトウイスキーの蒸留所が生まれて今年で丸1世紀だそう。100周年にあわせて、サントリーは山崎蒸溜所(大阪府)と白州蒸溜所(山梨県)の設備に100億円(!)規模を投じるんですって。
その目玉のひとつとなるのが、それらの蒸留所の一部に導入する「フロア・モルティング」という製法。どんな製法かって? ウイスキー学を学んでいるものとしてはぜひこの製法についてうんちくを傾けたいわ。
「フロア・モルティング」とは、穀物を麦芽化する伝統的な製法のこと。紀元3世紀頃、すなわちローマ帝国時代ににはすでにあったっていうから驚きの製法なのね。
今でもこのフロア・モルティングを守っているのは、スコットランドのアイラ島にあるいくつかの蒸留所だけなの。というのも、これがとんでもないほどの重労働だから。いまだ、フロア・モルティングを行っている蒸留所のひとつ、キルホーマン蒸留所での作業をのぞいてみましょう。
いくつもの山に分けてコンクリート床(フロア)に置かれているのはモルトウイスキーの原料となる大麦。十分に湿らせてある大麦は適温で発芽が始まり、その過程ででんぷん質から糖が作り出され、糖化酵素が活性化し麦芽となるのね。この大麦を発芽させる工程が「モルティング(製麦)」と呼ばれているから「フロア・モルティング」なの。
発芽するあいだ、根っこが絡まって「マット」状態にならないよう、「モルツマン(maltsman)」と呼ばれる職人たちが伝統的な道具を使って4時間毎にひっくり返す作業をしなければならないの。フロア・モルティングが重労働な製法だという理由はここにあったのね。
モルツマンたちは長年同じ格好で力仕事をするものだから、体の骨が変形してしまうことが多かったんですって。職業病ともいえるその変形は「モンキー・ショルダー」と呼ばれ、今ではウイスキー名にもなっているほど。
同じくフロア・モルティング製法を守っているアイラ島のボウモア(Bowmore)蒸留所にはこんな記録が残っています:「ここで実習した日本人はラグビーで鍛えた体が自慢だったが、フロア・モルティングで完全にばてた」
新聞記事では、このフロア・モルティング製法だと機械工程のモルティングより強い香りを引き出せるから、将来の品質向上のための実験的な取り組みになると期待しているそう。期待してるわ、サントリーさん!