すっかり日が暮れてこんな寒い日は何を読んだらいいんだろうか、ですか?それじゃ本日はこの本を推してみましょう。
この本の面白いところは、まず(近代)医療から生まれた言葉「病気」と「治療」に対して、「病(やまい)」と「癒し」という言葉をテーマにしたところ。人間以外の霊長類の「病」から見える自然とのかかわりあい、伝統医療と西洋医療がせめぎ合う地域に住む人たちにとっての「癒し」、人間の歴史的な「病」と社会との関係など、さまざまな角度から考察されているのは、著者陣が生態人類学分野で活躍する若手研究者たちだから。各自の得意分野における「病」と「癒し」問題を分かりやすく解説してくれているため、このふたつの言葉にはじつにたくさんの意味が含まれていることが分かります。
我らがチンパンジー隊の松本隊長もチンパンジー社会における「障害」という(これも医療から生まれた)言葉の意味合いを再考することで、ご自身の研究結果から新しい視点を導き出しています(それは読んでのお楽しみ)。
ちなみに「生態人類学」とは、人間の暮らしを環境とのかかわりのなかでとらえ、人間の生存を適応や進化の観点から評価する人類学のこと。人間にとって不利な「病」も進化のうちに有利なものへと変化する「癒し」となる場合もある、切っても切り離せないこのふたつの言葉の裏にある意味を私たちもこの機会にじっくり学んでみるのはいかがでしょうか。