2019年、最初のお勧め本は『東西ベルリン動物園大戦争』(著:ヤン・モーンハウプト)です。
原題はDer Zoo der Anderen「もう一方の動物園」。ドイツ・ベルリンにある東西ドイツのライバル動物園が、あるときは切磋琢磨(仲間同士互いに励まし合って向上すること )したり、あるときは 以夷征夷 (自らは手を下さずに、他の人間を利用して利益を得ること)したり、あるときは臥薪嘗胆(将来の成功を期して苦労に耐えること )の思いで踏ん張る、痛快ノンフィクション動物園史です。
なんといっても面白いのは、個性豊かな動物園の園長たち。東ドイツの愛されキャラ園長ダーテに対して、ちょっと鼻持ちならない西ベルリンの最年少園長クレース。ほかにもライプチヒ、ドレスデン、デュースブルク、フランクフルトといった大都市・小都市の動物園園長や飼育員たちが、敵味方になっては自分たちの動物園をドイツでいちばんの動物園にするために大奮闘。資金調達、人員確保、珍しい動物の獲得など、園長=社長の匙加減ひとつで、繁栄したり、衰退したり、と、ストーリーは息つくひまもなく展開します。
さらに激動のドイツ史――第二次世界対戦末期のナチス・ドイツに始まって、その後の米ソ冷戦に巻き込まれて分断された東西ドイツ、そしてベルリンの壁が崩されたあとの統一ドイツ――を動物園を通して読み解くこともできる一石二鳥の本なのです。
しかし、ですな、この本の本当の主人公は動物たちを心底愛するドイツ国民なのかもしれません。戦後、自分たちの食料を削ってまでも、動物たちにエサをやり、ボランティアを買って出るドイツ人の動物園愛こそが、今現在もドイツの動物園を盛り上げていく原動力となっているのは確かのようです。