エントリーナンバー【35】ジョアンナさん
おすすめはなんでしょうか!
はい。先日読んだ、オリバー・サックスのThe Man Who Mistook His Wife for a Hat(邦題『妻を麦わら帽子と間違えた男』)をお勧めします。この本では神経科の先生が患者さんに寄り添って、その症状から「哲学」を教えてくれます。
『妻を麦わら帽子と間違えた男』の著者オリバー・サックスは、イギリス人神経科医で、さまざまな症状の患者さんに寄り添って、その症状を細かに観察し、それを本にしていきました。長い間眠りについていた患者が突然目覚め、さまざまな体験をする映画『レナードの朝』もサックスの著書を原作としています。
表題の「妻を麦わら帽子と間違えた男」とは、視覚失認症(visual agnosia)になった音楽家のお話。ドアのノブに話しかけたり、消火栓を子どもの頭と間違えてポンポンとやさしくたたいたり…
「彼は手を伸ばすと、奥さんの頭をとって頭の上に乗せようとしました」
このSF小説から出てきたような一文が、音楽家が置かれた状況をすべて物語っています。視覚失認症は、とくに人の顔の認識が難しくなりますが、音楽家は持ち前の優れた聴覚で補っていきます。
ある日を境に時間が消えた人、自分の身体の存在が分からなくなった人など、著者の患者にはさまざまな症状が見られます。理解されずに見放された人もいるなか、彼はひたすら患者に寄り添い、人間の隠された能力に感嘆します。
「正常」と「異常」は相反するものではなく、連続の上にある任意の点でしかなく、人それぞれの「文脈」に影響されているんだ、ということを著者は教えてくれます。
ジョアンナさん、ありがとうございます。
人間の身体ってすごいです…もっともっと自分たちの内部を知りたい方はetwasneuesbooks@gmail.comまで。